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給与計算が自分でできる!社会保険・住民税・通勤費まで完全ガイド

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給与計算が自分でできる!社会保険・住民税・通勤費まで完全ガイド
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記事を書いた人
永島俊晶

永島税理士事務所、代表税理士/財務経営コンサル会社、代表取締役/経産省認定「経営革新等支援機関」/M&Aアドバイザー/AFP(ファイナンシャルプランナー) 財務戦略を武器にして、事業のステージに応じた永続経営のための支援を行っています。 毎月70人以上の様々な業種の経営者の支援をする中で、成功・失敗事例から学んだノウハウや、経営者として得た知見を発信しています。 <講演会> 各自治体の創業者研修、経営力養成講座、一部上場企業営業研修など講師として実績多数 <書籍> 『最強の戦略ツール・ビジネスモデルキャンバス』 新規事業の開発や事業拡大に不可欠なビジネスモデルキャンバスについて、詳細に解説しています。

目次

「給与計算なんて税理士に任せればいい。」
 そう思っていたけれど、会社が小さく外注するほどでもないし、ソフトを買う余裕もない——
 結局、自分でやるしかない…と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

でも給与計算は、ただの足し算・引き算ではありません。
 社会保険料や源泉所得税、住民税など、控除のルールやタイミングを誤ると追加徴収が発生し、従業員の信頼を失うことにもなりかねません。

この記事では、必要な流れと計算方法を図解と具体例でわかりやすく解説します。
 初めてでも順を追って進めれば、誰でもミスなく給与計算を完了できます。
 小さな会社の経営者や経理担当の方が安心して進められる、現場で役立つコツもお伝えします。

給与計算の全体フロー

STEP1|支給額を決める 基本給、役職手当、通勤手当、残業代

STEP2|社会保険料を引く 健康保険・介護保険、厚生年金、雇用保険

STEP3|源泉所得税を引く 課税対象額から控除

STEP4|住民税を引く 特別徴収の通知額を天引き

STEP5|振込額を決定 支給額 - 各種控除 = 振込額

この流れを一度理解すれば、給与計算は怖くありません。
 では次章から、具体的にどの数字をどの順で計算するのかを、一つずつ詳しく解説していきます。

1.給与計算の基本を押さえよう

給与計算の基本は「支給額」と「控除額」を正しく区分して、法律に従ったタイミングで天引きすることです。
 最低賃金の遵守も含め、ここを誤ると従業員とのトラブルにつながるため、仕組みを正確に理解しておきましょう。

1-1. 給与計算とは?基本の仕組み

給与計算とは、従業員が働いた対価として支払う賃金の総額から、法律で定められた各種保険料や税金を差し引き、最終的に【手取り額(差引支給額)】を確定する一連の業務です。

一見すると単純な引き算に思えますが、計算の根拠になる「課税」「非課税」のルール、保険料の料率、住民税の控除タイミングなどは毎年変わることがあります。
そのため、毎年最新の資料を必ず確認する習慣が必要です。

✅ 基本の計算
支給総額- 社会保険料- 源泉所得税- 住民税= 差引支給額(振込額)

1-2. 支給と控除の関係性

支給額と控除額は、給与明細で見ると以下のように構成されます。


項目内容例
支給項目基本給ベースとなる給与。月給であれば月々の変動がない
各種手当役職手当、資格手当、通勤手当など
割増賃金残業手当、深夜割増賃金など
控除項目社会保険健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料
税金源泉所得税、住民税
その他欠勤控除、賄い代など

各項目についてはこの後の章で説明していきます。

✅ 専門家の実務ポイント
・フローを必ず【支給→控除】の順に進めること
・支給項目は課税と非課税を区別すること
・常に最新の料率や税額表を参照する 

2.給与計算の準備と必要書類

給与計算をスムーズに進めるには、全体の流れを把握することと、毎月必要な書類を必ず最新で揃えておくことが大前提です。
 ここを押さえておかないと、計算のたびに「何を参照すればいいのか分からない」という状態になり、ミスや遅延の原因になります。

2-1. 給与計算の準備

給与計算に必要な代表的な資料は以下のとおりです。

書類確認項目入手先更新頻度
保険料額表健康保険、厚生年金全国健康保険協会
(協会けんぽ)
年1~2回(3月頃)
標準報酬決定通知書健康保険、厚生年金年金事務所から郵送年1回(9月頃)
雇用保険料率のご案内雇用保険厚生労働省年1回(4月頃)
源泉徴収税額表所得税国税庁年1回(1月頃)
住民税 特別徴収税額通知書住民税各自治体から郵送年1回(5月頃)


専門家の実務ポイント
必ず最新版を確認しましょう。
保険料率は年度途中で改定される場合があります。
 特に昇給・降給があった従業員がいる場合、標準報酬月額の見直し届出も忘れないようにしましょう。

2-3. 給与明細のフォーマット例

給与明細は、従業員への説明責任を果たす大切な資料です。
 必ず以下の項目を含めて作成します。

給与明細の基本項目
支給項目基本給、役職手当、残業手当、通勤手当(課税・非課税)
控除項目健康保険、厚生年金、雇用保険、源泉所得税、住民税
差引支給額振込額
勤怠情報出勤日数、残業時間など

✅ Excelで作る場合のポイント
・社会保険料や源泉所得税の自動計算式を組み込む
・通勤費の課税・非課税分を分ける
・控除項目を間違えて上書きしないようセル保護を設定する

専門家の実務ポイント
・保険料額表を印刷して手元に置くと計算のたびに参照できて便利
・特別徴収の住民税は金額を従業員に必ず通知し、誤解を防ぐ
(通知書と一緒に納税者用の配布物も同梱されるので本人に渡しましょう)
・従業員が増えたら給与計算ソフトの導入も検討すると効率化できる

3.支給項目と金額決定のポイント

給与計算の最初のステップは、支給額を決めることです。
ここでのポイントは、基本給だけでなく残業代や各種手当を含めた正しい課税支給額を計算すること。
これを間違えると控除額も変わり、所得税や社会保険料の計算が狂ってしまいます。

3-1. 基本給と各種手当の考え方

基本給
労働契約書に基づいて支給します。

各種手当
 例:役職手当、資格手当、家族手当など
 通勤手当については考え方が異なりますので次の章で説明します。

専門家の実務ポイント
「手当だから非課税」という誤解が多いですが、通勤手当の一定額以外は原則として課税になります。

3-2. 最低賃金の基礎知識

もう一つ、給与計算で忘れてはならないのが「最低賃金」です。
最低賃金は都道府県ごとに異なり、毎年10月頃に改定されるのが一般的です。例えば千葉県の2024年度最低賃金は1,076円です。

✅ 最低賃金を下回るとどうなる?
最低賃金は、基本給だけでなく残業代や深夜手当などの時間単価を含めて考えます。
これを下回ると、行政から是正勧告を受け50万円以下の罰金を科せられ、未払い賃金を追加で支払う必要があります。
月給制であっても時給換算にした際に最低賃金以上の設定をしなければなりません。

専門家の実務ポイント
最低賃金は毎年見直す!
 旧年度のまま計算している会社が意外に多く、未払いが発覚するケースが多発します。

3-3. 割増賃金の要件

労働基準法では割増率の最低基準が定められています。
所定労働時間、最低賃金に加え、法定外の残業や深夜勤務、休日労働の時間もしっかり管理し、法律に沿った計算を行うことが必要です。

割増賃金は3種類あります。

種類支払う条件割増率
時間外
(時間外手当・残業手当)
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき25%以上
時間外労働が限度時間(1ヶ月45時間、1年360時間等)
を超えたとき
25%以上
時間外労働が1ヶ月60時間を超えたとき50%以上
休日(休日手当)法定休日(週1日)に勤務させたとき35%以上
深夜(深夜手当)22時から5時までの間に勤務させたとき25%以上

参考元:しっかりマスター労働基準法|厚生労働省

【例】 時給1,500円、月50時間勤務(うち残業3時間)の場合
通常:1,500円 × 47時間 = 70,500円
残業:1,500円 × 1.25 × 3時間 = 5,625円
合計支給:76,125円(残業代込み)

専門家の実務ポイント
残業代・深夜手当の未払いは最も訴訟リスクが高いので要注意。

3-4. 通勤手当の非課税限度額

公共交通機関の場合
・電車・バスの通勤手当は、月15万円まで非課税です。
・定期代で支給する場合は、最も経済的かつ合理的なルートで計算します。

【例】自宅から会社までの定期代が18万円の場合
 → 15万円までは非課税、残り3万円は課税支給額に含めます。

マイカー・バイク通勤の場合
 車通勤の非課税限度額は、片道の通勤距離に応じて決まっています。
片道距離はGoogleマップなどで測定し、証拠として保存しておくとトラブル防止になります。

片道の通勤距離1ヶ月当たりの限度額
2キロメートル未満(全額課税)
2キロメートル以上10キロメートル未満4,200円
10キロメートル以上15キロメートル未満7,100円
15キロメートル以上25キロメートル未満12,900円
25キロメートル以上35キロメートル未満18,700円
35キロメートル以上45キロメートル未満24,400円
45キロメートル以上55キロメートル未満28,000円
55キロメートル以上31,600円

参考:No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当|国税庁

【例】 片道5kmの従業員に月5,000円のガソリン代を支給
 → 非課税限度額は4,200円なので、800円は課税支給額に含めます。

✅専門家の実務ポイント
・通勤手当の支給基準は就業規則に必ず明記
・交通費の超過分をうっかり課税に含め忘れるのはよくあるミス。
・特にマイカー通勤は非課税限度額を超えないか要チェック。

4.社会保険料の計算方法と控除のタイミング

社会保険料は給与計算において最も金額が大きく、間違えやすい部分です。
 健康保険・介護保険・厚生年金・雇用保険の計算方法と、控除のタイミングを正しく理解することで、追加徴収や従業員トラブルを防ぎましょう。

4-1. 健康保険・介護保険の計算

計算方法

  1. 保険料額表と社会保険事務所から届く「標準報酬決定通知書」を用意
  2. 標準報酬決定通知書記載の標準報酬の行を保険料額表から探し、折半額を確認
    「介護保険第2号被保険者に該当しない場合」の折半額=健康保険料
  3. 40~64歳は介護保険料が追加で発生します。
    「介護保険第2号被保険者に該当する場合」の折半額-健康保険料=介護保険料

以上

【補足】
・保険料率は都道府県で異なります。会社の所在地のものを使用します
・小数点以下は0.5以下は切り捨て、0.6以上は切り上げて控除します。
・標準報酬月額は昇給・降給で年1回(7月)が見直しタイミング
・「随時改定」が必要な場合は速やかに届け出る

4-2. 厚生年金保険の計算

計算方法

  1. 健康保険と同じように「厚生年金保険料」の折半額を確認

以上

【補足】
・厚生年金は9月~翌年8月まで固定されるのが基本
・標準報酬月額の大幅変動は届出が必要

4-3. 雇用保険料の計算

計算方法

  1. 支給総額(課税・非課税問わず)に所定の雇用保険料率を掛ける

以上

【例】支給総額:350,000円
 雇用保険料率(労働者負担):0.55%(仮)
➡ 350,000円 × 0.55% = 1,925円

【補足】
・雇用保険料率は業種ごとに異なる場合あり
・通勤手当も含めて総額ベースで計算する

4-4. 控除のタイミングと年次スケジュール

社会保険料は「前月分を当月控除」

多くの会社では、当月の給与から前月分の社会保険料を控除します。
 これを間違えると納付タイミングがずれて未納扱いになるので注意が必要です。

【年次スケジュールの例】
3月:保険料額表改定(健康保険・介護保険)
7月:定時決定(算定基礎届)
9月:標準報酬月額の変更反映
4月:雇用保険料率改定

✅専門家の実務ポイント
・保険料率を古いまま使っている会社が意外と多い
・パート・アルバイトでも加入要件を満たすと強制適用なので注意
・控除額が誤っていると社会保険事務所から差し戻される

5.源泉所得税・住民税の計算方法と注意点

源泉所得税と住民税は、「課税対象額」を正しく計算してから税額表を当てはめるのがポイントです。
とくに扶養控除申告書の提出有無やダブルワークの扱いを間違えると、徴収漏れや従業員からの不信感につながります。

5-1. 源泉所得税の計算ステップ(甲欄・乙欄の違い)

【基本の流れ】

  1. 課税支給対象額(課税支給総額-社会保険料(健康保険・介護保険・厚生年金・雇用保険)を算出する
  2. 従業員の勤務、扶養人数を確認
  3. 源泉徴収税額表に照らし合わせて所得税額を求める
補足説明
・甲欄とは?
従業員がその会社を主たる勤務先としている場合。
 扶養控除等申告書を提出していると適用されます。
・乙欄とは?
アルバイトなどで他にメインの勤務先がある場合
 扶養控除申告書を出していない人も乙欄で計算します。

算出した課税対象額を源泉徴収税額表に当て込みます。
甲乙と扶養人数の条件で交わったところが徴収すべき所得税額です。

【例】
支給総額(課税分):350,000円
社会保険料:48,000円

➡️ 課税対象額:350,000円 − 48,000円 = 302,000円

 扶養控除申告書あり(扶養家族1人)
➡️ 国税庁の「源泉徴収税額表(甲欄)」から該当する金額を探す
 令和7年度版では6,860円と判明したので天引きします。

5-3. 住民税の特別徴収と普通徴収

普通徴収の人は自分で収めてもらい、所属会社が特別徴収の場合は通知書を参考にして住民税を控除します。控除タイミングは当月支給の給与から控除が基本です。
例:末締め翌25日払い➡8月分は7月勤務8月25日払いから徴収する。

補足説明

・特別徴収とは
従業員の住民税は、原則として会社が毎月給与から天引きして自治体に納付します。
これは前年の所得に基づくため、新入社員や年度途中入社の場合は普通徴収で対応します。

・普通徴収とは
個人が自分で納める方法。
 途中入社や退職時、住民税より支給額が少ない場合は普通徴収になる場合があります。


✅専門家の実務ポイント
住民税の通知書は5月頃に届くので、従業員に金額を伝えておくとトラブル防止に

5-4. 扶養控除申告書の提出漏れリスク

甲欄で計算が出来るのは「扶養控除申告書」を提出した従業員に対してのみです。
逆に言えば提出していない人を甲欄で計算することはできません。

扶養控除申告書を出さないと乙欄計算になり、所得税が高くなるので従業員から不満が出がちです。
甲欄で計算するためには必ず出してもらうようにしましょう。

誤って甲欄で計算すると税務調査で指摘されるリスクがあります。

【書き方のポイント】
・家族構成が変わったら必ず最新を提出してもらう
・住所、マイナンバーの記入漏れが多いので提出時にダブルチェック

✅専門家の実務ポイント
・ダブルワークや副業者は必ず乙欄で計算
・住民税の通知書は5月頃に届くので、従業員に金額を伝えておくとトラブル防止に

6.【具体例】給与計算シミュレーション(2パターン)

ここでは、実際に「月給制」と「時給制+ダブルワーク」の2パターンの給与計算をステップごとにシミュレーションします。
 数字と計算式を追体験することで、実務での流れをしっかり把握しておきましょう。

6-1. 例① 月給制:基本給30万+役職手当5万+電車通勤1万+扶養1人の41歳

支給額
基本給:300,000円
役職手当:50,000円
通勤手当(電車):10,000円(非課税限度内なので全額非課税)

課税支給額
→ 基本給+役職手当= 350,000円

社会保険料(令和7年度千葉、標準報酬月額:360,000円の場合)
・健康保険:17,622円
・介護保険:20,484 - 17,622 = 2,862円
・厚生年金:32,940円
・雇用保険:350,000 × 0.55% = 1,925円

源泉所得税
課税支給額 350,000円 − 社会保険料合計(55,349円)= 294,651円
税額表(甲欄、扶養1人)から該当金額を確認
→ 6,520円

住民税
5月に届いた特別徴収税額通知書に従い毎月12,000円と仮定。

差引支給額

項目金額
総支給額350,000円
社会保険料-55,349円
所得税-6,520円
住民税-12,000円
非課税通勤手当+10,000円
振込額286,131円

【補足】
・通勤手当が非課税なので課税支給額には含めない
振込額には非課税分は含まれるので注意

6-2. 例② 時給制:時給1,500円×50h(残業3h含む)+車通勤+ダブルワーク

(社会保険の加入無し)

支給額
通常労働:1,500円 × 47h = 70,500円
残業:1,500円 × 1.25 × 3h = 5,625円
通勤手当(車・片道5km):
 → 距離5kmの非課税限度額は4,200円。
 → 実費(500円×10日)=5,000円 → 超過分800円は課税支給。

課税支給額
通常・残業・通勤手当の課税分
 = 70,500円 + 5,625円 + 800円
 = 76,925円

源泉所得税
課税対象額:76,925円
 扶養控除申告書なし → 乙欄で計算。乙で88,000円未満は3.063%が税率なので

76,925円 × 3.063% = 2,356円

住民税
副業先のため住民税は控除なし。

差引支給額

金額項目
総支給(課税)76,925円
非課税通勤手当4,200円
所得税-2,356円
振込額78,769円

6-3. シミュレーション結果のポイント

月給制の注意点

  • 標準報酬月額で社会保険料が決まるので保険料率が変わらなければ毎月同額
  • ただし役職手当や昇給で標準報酬が変わる場合は届出が必要

時給制の注意点

  • 勤務時間の変動が大きいので毎月の源泉所得税が変わる
  • 扶養控除申告書未提出の場合は乙欄になるので負担感が大きい

通勤手当の課税・非課税を必ず分ける

  • 電車:限度額15万円まで
  • 車:距離計算+証拠保管
✅専門家の実務ポイント
・計算の途中式を残す習慣をつけると、従業員に説明する際に安心される
・ダブルワークの乙欄は特にミスが多いので、税額表を必ず再確認
・残業代の割増率は法定通りに必ず設定

7.退職時の給与計算と住民税の扱い

退職時の給与計算では、通常の月と異なり「退職月の社会保険料の取扱い」や「住民税の残額を一括徴収するかどうか」で対応が分かれます。
 ここを誤ると未納が発生し、元従業員とのトラブルに発展することも。
 しっかりとフローを押さえておきましょう。

7-1. 退職月の給与計算の基本

【社会保険料】
退職日が月の末日か途中かで変わります。
・末日退職:その月分までの社会保険料が発生
・月途中退職:その月の社会保険料は不要(ただし雇用保険は日割りで計算)

【例】
 7月31日退職 → 7月分まで社会保険料が発生
 7月20日退職 → 7月分の社会保険料は不要

【雇用保険】
総支給額に対して計算し、最終月も控除します。

7-2. 住民税の一括徴収ルール

【原則】
 住民税は前年の所得に基づいて課税されているため、年度途中の退職の場合は残りの住民税を一括徴収するのが原則です。

退職時期対応
6~12月退職本人の希望があれば普通徴収(自分で支払)へ切り替え可能
1~5月退職残りの住民税を給与から一括徴収して納付する

【例】
 7月末退職で住民税月額12,000円、残り8か月分 → 12,000円 × 8か月 = 96,000円を一括控除

7-3. 途中退職者のよくあるQ&A

Q1.退職月に有給を使った場合、社会保険料はどうなる?

A1. 有給で末日まで在籍扱いなら、その月の社会保険料も発生します。

Q2.住民税を引き忘れた場合、どうすればいい?

A2. 原則として雇用主が責任を負います。
 未徴収分を従業員へ連絡し、普通徴収へ切り替える手続きを行いましょう。

Q3.本人が一括徴収を拒否したら?

A3. 法的には1~5月退職の場合は一括徴収が原則です。
 ただし本人の経済的事情が深刻な場合、自治体へ相談して普通徴収にできる場合もあります。

✅専門家の実務ポイント
・退職月に「最終給与」と「一括徴収分の住民税」で振込額が大幅に減るため、必ず事前に本人へ説明をしておきましょう。
・途中退職後に未納住民税で督促状が元雇用主に届くケースもあります。
・退職日と社会保険の発生有無は社労士に確認するのが安心です。

8.給与計算を間違えないためのチェックリスト

給与計算は毎月繰り返し行う業務だからこそ、「チェックリスト化」して習慣にするのがミス防止の一番の近道です。
 ここでは、小さな会社でもすぐに活用できるチェックポイントを一覧化し、もし誤りが見つかった場合の対応方法まで解説します。

8-1. 毎月のチェックポイント

✅ 勤怠集計の確認

  • 勤怠データが締め日までに確定しているか
  • 有給休暇の取得漏れや残業時間の誤集計がないか

✅ 支給項目の確認

  • 基本給・手当の金額が雇用契約書と一致しているか
  • 通勤手当の金額・非課税限度額が最新か

✅ 控除項目の確認

  • 社会保険料の標準報酬月額は正しいか
  • 源泉所得税の甲欄・乙欄の適用が間違っていないか
  • 住民税の特別徴収額が通知書と一致しているか

✅ 最終確認

  • 差引支給額の計算が合っているか
  • 給与明細に漏れなく反映されているか

8-2. 年次でやるべき確認

✅ 年1回の定期チェック

  • 健康保険・介護保険・厚生年金の料率が最新か
  • 標準報酬月額の改定(算定基礎届)が漏れていないか
  • 扶養控除等申告書の提出が最新になっているか

✅ 人事異動・昇給

  • 昇給・降給があった従業員の標準報酬の届出を忘れていないか
  • 退職者の最終給与の住民税一括徴収が正しく行われているか

8-3. 計算ミス発覚時の対応方法

✅ ミスに気づいたら

  • 該当従業員へ必ず説明し、誤差の内容と返金・追徴方法を相談する
  • 税務署・年金事務所への訂正届出が必要か確認する

✅ よくある訂正パターン

  • 源泉所得税:翌月以降で調整可能。精算が必要な場合は年末調整で対応
  • 社会保険料:誤徴収分は翌月以降で調整、または還付手続きを行う

✅ 記録を残す

  • ミスの経緯と対応履歴を必ず残すことで、後日のトラブルを防止
✅専門家の実務ポイント
・チェックは必ず「人が変わってダブルチェック」が原則
・年度替わりは料率が変わるので前年のままの計算にならないように!
・住民税の特別徴収通知は保管しておくと従業員からの問合せ対応がスムーズ

9.専門家が教えるトラブル事例とリアルな解決策

どれだけ慎重に計算していても、給与計算は人の手が入る以上、ミスがゼロとは限りません。
ここでは、実際に私が中小企業の社長や経理担当の方から相談を受けた事例を元に、どう解決したのか・どう防ぐべきだったかを具体的に紹介します。

9-1. 扶養誤登録・税金差額問題

【事例】パート社員Aさんが「扶養控除等申告書」を提出していなかったため、乙欄で高い所得税が毎月引かれていた。年末に「税金を返してほしい」と言われトラブルに。

✅ 解決策

  • 乙欄で引いた税額は税法上は正しいため、会社で返金は不可。
  • 年末調整や確定申告で正しい扶養控除を適用し、税務署から還付を受けてもらうよう説明。

✅ 防止策

  • 入社時に必ず扶養控除等申告書を提出してもらう仕組みにする。
  • 年度替わりに再提出を依頼することで最新状態を保つ。

9-2. 残業代の未払いで訴えられそうに

【事例】ある社員が退職時に「残業時間が実際より少なく計算されていた」と労基署に駆け込んだ。

✅ 解決策

  • タイムカードや勤怠記録を再確認し、申告内容に誤りがあれば未払い分を支給。
  • 支払った場合は「未払い分の受領書」を従業員から必ずもらい、証拠を残す。

✅ 防止策

  • 勤怠の締め日と残業申告のタイミングを揃える。
  • 「サービス残業禁止」の社内ルールを明確化する。

9-3. 住民税の未徴収で自治体から督促

【事例】小規模企業の経理担当者が退職者の住民税を引き忘れ、後から自治体から未納分の督促が届いた。

✅ 解決策

  • 退職者へ連絡し、普通徴収で自分で納めてもらう旨を説明。
  • どうしても会社で支払う場合は、会社負担として処理。

✅ 防止策

  • 退職者の住民税の残額を必ず「一括徴収する or 普通徴収へ切替する」の2択で対応する。
  • 5月に届く特別徴収税額通知書をすぐファイルして従業員ごとに管理する。
✅専門家の実務ポイント
・トラブル対応は「事実を正確に確認し、証拠を残す」が最優先。
・給与計算の相談は「社労士・税理士と連携する」ことでリスクを最小化できる。
・従業員とトラブルになった際の証拠は、勤怠記録・給与明細・申告書類の3点が鍵。

10.まとめと次にやるべきこと

給与計算は、基本の流れを理解してしまえば決して難しいものではありません。
 大切なのは「最新の料率を確認する」「課税・非課税を正しく扱う」「退職時などのイレギュラーに慣れておく」の3点です。
 最後に、この記事の要点を振り返りながら、これからの実務でやるべきことを整理しておきましょう。

10-1. 記事の要点まとめ

給与計算の基本フローを守る

  • 支給額を決定する
  • 社会保険料を正しく引く
  • 源泉所得税・住民税を正確に控除する
  • 差引支給額を従業員に説明できるようにしておく

課税・非課税の線引きを明確に

  • 通勤手当の非課税限度額、車通勤の距離計算は特に注意
  • 残業代・深夜手当はすべて課税対象

退職時・ダブルワークの扱いに慣れておく

  • 住民税の一括徴収や普通徴収への切り替え
  • 扶養控除申告書の提出漏れ防止
  • ダブルワークは乙欄で計算する

10-2. 自社で継続改善するポイント

✅ 最新の料率を毎年更新する習慣をつける
✅ 標準報酬月額の見直し(算定基礎届)を忘れない
✅ 勤怠データと給与計算がズレないようにダブルチェック
✅ チェックリストを運用して、担当者が変わってもミスしない体制をつくる

10-3. 専門家に相談する判断基準

✅ 「標準報酬月額の届出が合っているか分からない」
✅ 「残業代計算の方法に不安がある」
✅ 「住民税の一括徴収・普通徴収の切替方法が分からない」
✅ 「従業員とのトラブルを防ぐ対応を知りたい」

こうした場合は、税理士や社労士に相談するのが最も確実です。
小さな会社ほど相談窓口を1つ持つことで、トラブルが起きたときの負担が大きく変わります。

給与計算は従業員との信頼を築くための大切な業務です。
 正しい知識を持って、安心して働いてもらえる会社を目指しましょう。

 


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