【飲食業のための税金ガイド】税理士が税務のポイントを完全解説
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永島税理士事務所、代表税理士/財務経営コンサル会社、代表取締役/経産省認定「経営革新等支援機関」/M&Aアドバイザー/AFP(ファイナンシャルプランナー) 財務戦略を武器にして、事業のステージに応じた永続経営のための支援を行っています。 毎月70人以上の様々な業種の経営者の支援をする中で、成功・失敗事例から学んだノウハウや、経営者として得た知見を発信しています。 <講演会> 各自治体の創業者研修、経営力養成講座、一部上場企業営業研修など講師として実績多数 <書籍> 『最強の戦略ツール・ビジネスモデルキャンバス』 新規事業の開発や事業拡大に不可欠なビジネスモデルキャンバスについて、詳細に解説しています。
飲食業特有の税金のポイントがあります。
細かく難しい税金の計算は、プロである税理士に任せて問題ありませんが、税金の基礎を抑える事で、税務調査への対策はもちろんのこと、適切な経営判断を行うこともできます。
今回は、経営者が抑えておくべき必要最低限のポイントに絞って解説していきますので、是非最後までチェックしてください。
・飲食業の税務調査のポイントについてはこちら(準備中)
・飲食業の節税対策についてはこちら(準備中)
1.飲食業の税金の8つのポイント
飲食業における税金の8つのポイントは次の通りです。
項目 | チェックポイント |
---|---|
1-1.売上の管理 | 売上の管理・計上方法に注意 |
1-2.在庫の管理 | 期末に棚卸作業が必要 |
1-3.人件費の取扱い | 銀行振込で証拠を残す! |
1-4.賄い | 無償での提供は課税されるリスク大! |
1-5.消費税の軽減税率 | 店内飲食10%・テイクアウト8% |
1-6.消費税の取扱い (課税売上高1,000万円以下、又は設立2期目までの場合) | 消費税の納税は免除 |
1-7.消費税の取り扱い (課税売上高1,000万円超の場合) | 消費税の納税義務が発生 |
1-8.インボイス制度の影響 | 顧客が一般個人の場合、インボイス登録の必要なし。 |
それぞれ詳しく解説していきます。
1-1.売上の管理
①現金売上
飲食店の売上は、その場で現金を受け取る「現金商売」であるため、正確な売上の管理・計上が重要なポイントです。現金商売は、売上の計上漏れの温床と言われており、事前の通知なく、突然、税務調査が入るケースがあります。
常日頃から、現金残高と現金出納帳の照合はもちろんのこと、加えて伝票やレジの記録との照合も徹底して行うようにしましょう。
【現金出納帳(サンプル)】
②クレジットカード売上
クレジットカードによる売上は、次の3つの注意点があります。
(1)クレジットカード売上の計上タイミング
(2)クレジット手数料の取扱い
(3)クレジット手数料は非課税仕入れ
それぞれ解説していきます。
(1)クレジットカード売上の計上タイミング
クレジットカード売上の計上タイミングは、カード会社からの入金日ではなく、顧客のカード利用日、つまり売上の発生時です。レジの記録をもとに売掛金で計上し、カード会社からの入金のタイミングで売掛金の消込を行います。
仕訳は下記の通りです。
【売上発生時の仕訳】
例)3,300円のクレジットカード売上が発生した。
借方 | 貸方 |
---|---|
売掛金 3,300円 | 売上高 3,300円 |
(2)クレジット手数料の取扱い
クレジットカード売上は、カード会社から売上代金が入金される際に、クレジット手数料が差し引かれて入金されます。
ですが、クレジットカード売上は、クレジット手数料も含めた金額を「売上」としなければなりません。
すでに、売上の発生時にクレジット手数料を含めた金額を計上していますので、貸借が合わなくなってしまいます。
そのため、売掛金の消込を行う際、クレジット手数料分を「支払手数料」の勘定科目を立てて仕訳をする必要があります。
【クレジットカード売上の入金時の消込】
例)後日、カード会社からクレジット手数料100円を引いた、3,200円が普通預金に入金された。
借方 | 貸方 |
---|---|
普通預金 3,200円 支払手数料 100円 | 売掛金 3,300円 |
上記のように、カード会社から売上が入金された時に、消込の仕訳をすることで売掛金が消えます。
借方 | 貸方 |
---|---|
売上 3,300円 | |
普通預金 3,200円 支払手数料 100円 |
(3)クレジット手数料の消費税は非課税仕入
クレジット手数料については、消費税の課税区分が「非課税仕入」となります。
クレジット会社へ支払うクレジット手数料は、単なる資金の移動(債権譲渡)のための手数料であり、「サービスの利用」には該当しないため、消費税がかからないのです。
そもそも、消費税は、国内における商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して課税されるものです。
ただし、消費税の性格や社会政策的な配慮などから消費税が非課税となるものが存在します。
その中に、債権譲渡が該当します。一般的に「消費」と言う概念になじまないためです。
クレジット会社が発行している、クレジット売上明細には、わざわざクレジット手数料は「非課税仕入」などとは、書かれていませんので、会計ソフトへ登録する際の消費税区分の選択には注意が必要です。
注意! |
---|
PayPayや交通系電子マネー、LINE Pay、Alipay、WeChat Pay、d払い、楽天Edy、nanaco、WAONなど、あらかじめチャージをしておいてから、支払いを行うタイプのキャッシュレス決済利用手数料は、消費税の課税区分が「課税仕入」となります。 |
③割引券・ポイント
割引券やポイントは、発行時ではなく顧客が割引券やポイントを利用した日の属する事業年度に、売上値引きとして損金に算入します。
例えば、1,100円の定食を頼み、200円の割引券を使った場合の仕訳は下記のようになります。
借方 | 貸方 |
---|---|
現金 900円 売上値引き 200円 | 売上値引き 200円 |
1-2.在庫の管理
飲食店の場合、仕入をした食材や、ドリンク等が期末時点で全て売り切れになることは基本的にないため、決算時には、棚卸を実施し、記録しておく必要があります。
棚卸とは、在庫の金額を確定させることです。
在庫の金額を確定することで、利益を正しく算出することが出来るようになるのです。
正しく棚卸を行なっていないと、利益を正しく算出することが出来きず、「不当に利益を下げている」と税務署が判断すれば、粉飾決算として、追徴課税などのペナルティーを受ける可能性があります。
この時に、食材、ドリンクを使用した量と売上に計上されている金額が理論上対応しているかが、税務調査では論点となることが多いです。厳密に消費した分を把握することは困難ですが、納品書や請求書等の証憑をきちんと整理し、棚卸集計表を作成して証拠を残しておくようにしましょう。
【棚卸集計表(サンプル)】
棚卸の手順 ※決算日当日に実施する ①棚卸集計表を手元に用意 |
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1-3.人件費の取扱い
給与の支払いは、必ず銀行振込で行い、通帳に記録を残すようにしましょう。
タイムカード等で勤務実態を残し、賃金台帳、給与明細、源泉徴収票を作成しましょう。
給与を現金で支払ったり、勤務実態の記録がないと、架空の人件費を計上していると税務調査で疑われてしまう可能性があります。
勤怠管理ソフトの利用がおすすめです。
勤怠管理ソフトを利用することで、勤務実態をきちんと把握することができますし、面倒な勤怠管理業務の効率化が可能になります。
【おすすめ勤怠管理ソフト】
名称 | 特徴 | 料金 |
---|---|---|
勤怠管理システムKING OF TIME | 様々な打刻方法に対応、各種給与計算ソフトと連携可能。 | 初期費用無料 月額300円/人 |
マネーフォワードクラウド勤怠 | 様々な勤務形態に応じてカスタマイズ可能。同シリーズのマネーフォワードクラウド給与やマネーフォワードクラウド人事管理と連携が可能。 | 初期費用無料 月額2,980円~ |
freee人事労務 | プランによっては、勤怠管理から給与計算、給与明細の作成も可能。 | 月額2,000円~ |
1-4.賄い
飲食店では、従業員に福利厚生の一環として賄いを提供することがあります。
しかし、賄いを無償で提供していると、現物給与とみなされ課税されるリスクがあります。
現物給与とみなされると、従業員の所得税や住民税の負担が増えてしまいます。
賄いを現物給与とみなされないようにするためには、以下の2点を満たす形で提供しましょう。
1.従業員が食事の価額の半分以上を負担していること。
2.事業主が負担した金額が月3,500円(税抜)以下であること。
具体的には、1か月のうちの賄いの総額が7,000円(税抜)を超えない範囲で賄いを提供し、賄い代として3,500円を従業員の給与から天引きする必要があります。
また、例えば食事代の総額が10,000円(税抜)の場合でも、従業員から賄い代として7,000円を回収すれば、従業員が食事の価額の半分以上を負担し、事業主の負担は3,000円で3,500円以下となるので問題ありません。
※賄いの価格については、食事の材料費や調味料など、賄いを作るために直接かかった費用、つまり原価相当額と考えます。
実務上は、一食当たりの金額と日数分を計算して給与から天引きするとなことになりますが、従業員の手取りが減ってしまうため、賄い分同額を食事手当として給与に上乗せするケースが多いです。
ただし、上乗せした分、従業員の所得が上がるという点は理解しておく必要があります。
1-5.消費税の軽減税率(店内飲食10%・テイクアウト8%)
2019年10月に消費税率が10%に引き上げられ、同時に飲食料品等については、8%の軽減税率制度が創設されました。酒類を除く、飲食料品、週2回以上発行される新聞など一定の品目について、軽減税率制度により税率8%が適用されます。
飲食店の場合、店内飲食は軽減税率の対象とならず消費税10%が適用になります。
一方、コロナ禍で増えたテイクアウト(持ち帰り)、デリバリー、キッチンカーは軽減税率の対象となり、消費税は8%です。ウーバーイーツ、出前館などの売上も8%の対象です。
さらに、飲食店の場合、食材の仕入れについても、酒類を除き、8%の軽減税率が適用されます。
この後、解説する1-8.インボイス制度の影響に大きく関係していきます。
1-6.消費税の取扱い
(課税売上高1,000万円以下、又は設立2期目までの場合)
2期前の年間の課税売上高が1,000万円以下、または設立から2期目までの場合、原則、消費税免税事業者を選択することができ、消費税の納税を免除されます。
設立から3期目以降であっても、2期前の年間の課税売上高が、1,000万円以下の場合は、消費税の納税は免除されます。
ただし、一定の要件を満たした場合、消費税の免除はされません。
消費税の納税義務が発生する要件 ・資本金が1,000万円以上 |
1-7.消費税の取り扱い
(課税売上高1,000万円超の場合)
2期前の年間の課税売上高が、1,000万円を超えると消費課税事業者となり、消費税の納税義務が発生します。
消費税課税事業者となると、次に「原則課税」か「簡易課税」のどちらかを選択する必要があります。
2期前の年間の課税売上高が5,000万円を超えている場合は、強制的に「原則課税」となります。
原則課税とは、売上にかかる消費税額と、実際に仕入や経費等で支払った消費税額の差額をきっちり計算して消費税を納める方法です。
一方、2期前の年間の課税売上高が5,000万円を超えていない場合は、「原則課税」と「簡易課税」のどちらか有利な方を、所定の期日までに税務署に届出することで選択出来ます。
飲食店の場合、「簡易課税」を選択した方が、一般的には有利になるケースが多いです。
簡易課税とは、売上にかかる消費税に対して、一定の「割合(みなし仕入率)」をかけた金額を、消費税を支払ったとみなして計算し、納税する方法です。
飲食店では、みなし仕入率60%を採用することが出来る、簡易課税を選択した方が有利になると言えます。簡単な事例で比較してみます。
<原則課税と簡易課税の消費税比較表(売上1500万円、食材仕入450万円、経費350万円の場合)>
原則課税 | 簡易課税 |
---|---|
79万円 | 60万円 |
差額 19万円
この計算について、詳しい内容が知りたい方は、このまま続きを読んでください。
結論だけ知りたい方は、この先を飛ばして、1-8.インボイス制度の影響へ
【前提】
売上:1,500万円
食材仕入れ:450万円
家賃、水光熱費等経費:350万円(給与・役員報酬除く)
※テイクアウトなし、みなし仕入率60%
原則課税の場合 |
---|
▼売上にかかる消費税 ▼消費税納税額 原則課税の場合、79万円の消費税を納めることになります。 |
簡易課税の場合 |
---|
▼売上にかかる消費税 簡易課税の場合、60万円の消費税を納めることになります。 |
このように飲食店の場合は、簡易課税の方が有利になるケースが多いです。
ただし、テイクアウトを行っている飲食店では、売上の消費税の計算に8%が混在するため、計算結果が変わってきます。
また、経費や設備投資の計画など、しっかりとシミュレーションする必要があります。
さらに、一度簡易課税を選択した場合、2年間は継続しなければなりませんので注意が必要です。
消費税の計算は複雑ですので、簡易課税、原則課税どちらの方が有利になるのかは税理士に相談するようにしましょう。
1-8.インボイス制度の影響
インボイス制度については、免税事業者であるか、課税事業者であるかによって受ける影響が異なります。また、顧客の属性によっても対応の方法が異なります。
それぞれ解説していきます。
基準期間の課税売上高が1,000万円以下の免税事業者が受ける影響
基準期間の課税売上高が1,000万円以下で、免税事業者である場合は、消費税の納税をしないため、インボイス制度による直接的な影響は、基本的にはありません。
【インボイス登録はするべき?】 ただし、接待や商談で利用する顧客が多い場合はインボイスの登録を検討する必要があります。 インボイス要件を満たした領収書や、レシート(適格請求書)が発行できないと、顧客もしくはその勤務先の税負担が増加してしまうため、今後は、インボイス登録をしている他店を利用しようと考え、利用客が減少してしまう可能性があります。 ただし、インボイス登録するためには、課税事業者になる必要があります。 |
※インボイス発行事業者の2割特例(期間限定の緩和措置) |
基準期間の課税売上高が1,000万円を超える課税事業者が受ける影響
基準期間の課税売上高が1,000万円超で、課税事業者である場合は、消費税の納税義務があるため、インボイス制度への対応が必要になります。
ただし、簡易課税を選択しているケースと、原則課税を選択しているケースで対応が異なります。
①簡易課税を選択している場合
簡易課税を選択している場合、特別に対応は必要ありません。
従来通り、みなし仕入率を利用して、納税すべき消費税の計算を行います。
②原則課税を選択している場合
原則課税を選択している場合、仕入先等からインボイス(適格請求書)を発行してもらう必要があります。受け取った請求書やレシート、領収書が、インボイスの要件を満たしたものであるか、確認が必要です。
インボイス(適格請求書)を発行してもらえないと、仕入税額控除を行うことが出来ず、消費税の納税額の負担が大きくなります。つまり、仕入にかかった消費税を、売上にかかる消費税から引くことが出来ないということです。
もし、仕入先がインボイス登録をしていない場合、仕入税額控除を行うために、インボイス登録をしてもらうように、お願いをする、または仕入れ先を変更するなどの対応が必要になります。
【インボイス登録はするべきか?】 |
2.まとめ
今回は、飲食業の経営者が必要最低限、理解しておいて欲しい税務について解説をしました。
飲食業は特に現金取引の多い業界です。
現金商売は、事前の通知なく、突然、税務調査が入るケースが多いため、日々の正確な売上・経費の記録・管理が重要なポイントとなります。
日々の正確な記録・管理は、税務調査への対策はもちろんのこと、経営者として、経営の状況を把握し、適切な判断をするためにも役立ちます。
細かく難しい税金の計算は、プロである税理士に任せて問題ありませんが、税務の基礎を抑える事でより適切な経営判断を行うこともできますので、今回解説した8つのポイントは覚えておきましょう。